◎夫が亡くなった後、妻の生活はどうなる?
「自分が先に亡くなったら、妻はこの家に住み続けられるだろうか。」相続相談の現場で、多くの相談者様がこのような不安を口にされます。
特に、財産のほとんどが不動産で自宅が夫名義のみ、子どもが複数いる、再婚家庭で前妻との子がいる場合、このようなケースでは、対策をしていないと、妻の生活が不安定になる可能性があります。
この記事では、妻の住まいと生活費を守るために、夫が生前に行うべき具体的対策を、実務の視点から解説します。
1.法定相続だけでは安心できない理由
例えば、夫が亡くなり妻と子ども2人が相続人の場合、民法上の法定相続分は、妻が2分の1、子それぞれが4分の1です。一見、妻が半分取得できるので安心に見えます。
しかし問題は財産の「中身」です。仮に、自宅 3,000万円、預金 600万円というケースでは、妻が自宅を取得すると妻の相続分は1800万円なので、子どもに900万円ずつ代償金を払う必要が生じる可能性があります。
もし妻にそれだけの現金がないと、最悪の場合には自宅売却という事態にもなりかねません。
2.最優先対策:公正証書遺言の作成
このような場合、夫が必ず検討すべきなのが公正証書遺言です。なぜ公正証書遺言が重要なのかというと、「自宅は妻に相続させる」と明確に指定できるからです。
公正証書遺言は、①家庭裁判所の検認が不要で相続手続がスムーズ、②公証人や証人が遺言書作成時に立ち会うことから、遺言書の偽造がなく遺言者本人の意思が確実に示されたものということができ、子供たちも遺言者の気持ちを理解しやすくなるはずです。結果として、速やかに自宅不動産の名義を妻に移すことができます。
特に高齢夫婦の場合、残された配偶者は住み慣れた自宅で余生をおくることができるので、遺言の有無で安心度は大きく変わります。
また付言事項として、「妻の生活を第一に考えているので、子どもたちには理解してほしい」といったメッセージを書くことも、争い防止に有効です。
3.2020年新制度「配偶者居住権」とは?
配偶者居住権は、2020年の民法改正により創設された制度です。
■ 制度の仕組み
この制度の内容は、建物の所有者が誰になっても、残された配偶者に自宅に終身住み続ける権利を与えるといったことです。
例えば、夫婦が相続前から住み続けていた建物を、子が相続したのち第三者にその建物を売却したとしても、残された配偶者は「配偶者居住権」を主張してそのまま住み続けることができるのです。
■ どんな場合に有効か
相続財産(額)の多くが自宅で、かつ子どもが複数いるときなどで、妻の取得割合を抑えつつ自宅でそのまま住み続けられようにしてあげたい、といった時に「配偶者居住権」の利用を考えてはどうでしょうか。
例として、相続人が妻と子2人、相続財産が自宅4000万円と現金預金4000万円とします。法定相続分で分けたとして、妻が自宅不動産を取得して現金預金は子2人が取得したとします。
この場合、妻が老後の生活資金をあまり持っていなかっとしたらどうでしょうか。住まいは確保できても、相続後の生活に困窮してしまいます。
このようなケースでは、妻に現金預金のうち2000万円を相続させ、子には残りを相続させる。同時に、妻に「配偶者居住権」を設定させ、子には自宅の所有権を相続させる、といった趣旨のことを遺言書で書いておけば、相続後の妻の住まいと生活資金の両方が確保ができることになります。
■ 「配偶者居住権」を設定するメリット
「配偶者居住権」を設定することで、① 妻は住み慣れた自宅に一生住み続けられる、② 不動産を売却せずにすむ、③ 相続税評価を抑えられる可能性がある、といったメリットがあります。
ただし、遺言で定める必要がある、登記が必要、不動産処分に制限がかかるなどの注意点もあります。
行政書士などの専門家に依頼する実務では、遺言と組み合わせて設計しますので、詳細は相談時に質問するとよいでしょう。
4.生命保険で生活費を確保する
現在多くの家庭では、残された家族のために死亡保険金に入っていることと思いますが、再度生命保険の役割りを確認してみましょう。
生命保険金は、受取人固有の財産であり遺産分割の対象とはなりません。ですから、保険金の受取人を配偶者に設定しておけば、故人の葬儀代や生活費を確保できることになります。
預金が少なくても配偶者の生活資金を確保することができるので、最も即効性のある生活費対策となるはずです。
一方、相続税が発生するような場合でも、500万円 × 法定相続人の数まで非課税となるので、生命保険の活用は多くの家庭にとってメリットがあるといえるでしょう。
5.預金凍結リスクへの備え
被相続人である夫が亡くなると、夫名義の預金は死亡後に凍結されます。銀行は家族からの死亡の事実が報告されなくても、葬儀の案内看板を見たりして預金者の死亡が分かった場合は口座を凍結します。
そのため、凍結された夫の口座から現金を引き出すことは原則できなくなります(*遺産分割前の相続預金の払い出し制度については別の機会に解説)。
このような事態に備えて、当面の生活費確保のために妻名義口座を用意して、日常生活費を分散しておくことも実務上重要です。
6.婚姻20年以上なら「自宅の生前贈与」
婚姻20年以上の夫婦には、2,000万円まで贈与税控除の特例があります。自宅持分を妻へ移すことで、相続トラブル予防や妻の権利確保が可能になります。ただし、登録免許税・不動産取得税・将来売却時の税務影響
があるため、慎重な検討が必要です。
7.家族信託という選択肢
将来、夫が認知症になった場合、不動産が売れない、預金が動かせないという事態が起こります。
このような事態が想定されるなら夫婦あるいは家族全体で話し合い、夫の意思能力があるうちに家族信託を活用して、妻が夫の財産を管理できる仕組みを作ることも可能です。
8.実務で多い後悔
「うちは揉めない」と思っていた、子どもが理解してくれると思っていた、遺言を先延ばしにしていた、その結果として、妻が精神的にも経済的にも苦労するケースは少なくありません。
妻の生活を守るために重要なのは、①公正証書遺言の作成、②配偶者居住権の検討、③生命保険による現金確保、④財産構成の見直し、④必要に応じて生前贈与・家族信託です。
相続は「亡くなってから考える」ものではありません。元気なうちに準備することで、残された配偶者の安心が守られます。
当事務所では、財産の棚卸し、妻の生活を守る遺言設計、配偶者居住権の具体的活用アドバイスを行っています。
初回相談にて方向性をご提案いたしますのでどうぞお気軽にご相談ください。
